個人事業主に税務調査が来る確率は、国税庁が公表している件数で単純に計算すると、税務署の職員が自宅や事業所に来る「実地調査」で1%に届かない程度です。ただし、文書や電話で申告内容の見直しを求められる「簡易な接触」は年に約69万件あり、実地調査を受けた人の8割以上で申告漏れなどが見つかっています。
この記事では、公認会計士・税理士の奈須大貴が、国税庁の数字から「確率」をどう読めばよいかを整理し、調査の対象に選ばれやすい申告の特徴と、連絡が来ても慌てずに済む帳簿の整え方を解説します。
国税庁の数字で見る、個人の税務調査の件数
国税庁の令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況(令和6年7月から令和7年6月まで)では、所得税の調査等の件数が次のように公表されています。
| 調査等の種類 | 件数 | 申告漏れ等が見つかった件数 | 割合(件数から計算) |
|---|---|---|---|
| 実地調査(職員が訪問して行う調査) | 46,896件 | 39,178件 | 約84% |
| 簡易な接触(文書・電話・来署の依頼) | 689,440件 | 329,549件 | 約48% |
| 合計 | 736,336件 | 368,727件 | 約50% |
簡易な接触とは、同じ資料で「原則、納税者宅等に臨場することなく、文書、電話による連絡又は来署依頼による面接を行い、申告内容を是正するもの」と説明されています。実地調査による追徴税額は、1件当たり241万円でした。
一方、令和6年分の確定申告状況によると、所得税の申告をした人は2,339万人、そのうち納める税額があった人は517万人です。実地調査の件数をこの517万人で単純に割ると、約0.9%になります。
「確率」の数字は、何で割るかで変わる
インターネット上では、個人事業主に税務調査が来る確率として「0.5%」「1%前後」「1.5〜2.5%」など、さまざまな数字が紹介されています。どれかが間違っているというより、何を分子にして、何で割っているかが違うためです。
分母を「申告をした人全体(2,339万人)」にすれば、確率はもっと小さくなります。分母を「納める税額があった人(517万人)」にすれば約0.9%です。分子に簡易な接触まで含めれば、73万件余りを517万人で割って14%ほどになります。この中には、給与や年金だけの人、事業をしていない人の申告も含まれているため、個人事業主だけの正確な確率は、公表されている数字からは出せません。
確率の数字で押さえておきたいのは、次の2点です。
- 職員が訪問する実地調査は、毎年ごく一部の人にしか行われない
- 文書や電話での連絡はその十数倍あり、実地調査を受けると、8割以上の人で申告漏れなどが見つかっている
「確率が低いから大丈夫」と考えるより、「連絡が来たときに、帳簿と資料で説明できるか」を基準に備えておくほうが、実際の役に立ちます。
個人事業主が調査の対象に選ばれやすいといわれる申告
税務署がどのような基準で調査の対象を選んでいるかは、公表されていません。ただ、一般に次のような申告は、税務署から説明を求められやすいといわれています。
| 選ばれやすいといわれる申告 | 税務署から見えること | 日頃からできること |
|---|---|---|
| 申告をしていない | 取引先の支払調書や銀行の記録と、申告がないことが合わない | 申告が必要かを毎年確かめ、遅れていれば自分から申告する |
| 売上が毎年同じ境目のすぐ下にある | 消費税の課税事業者になる基準を意識した売上に見える | 売上をもれなく帳簿に入れ、請求書の控えを残す |
| 経費の割合が同業より高い、急に増えた | 前年の申告や同業との比較で目立つ | 大きく増えた経費の理由と根拠を書き残す |
| 現金で受け取る売上が多い | 通帳に入らない売上の記録が見えにくい | 日々の売上を記録し、レジや売上帳を残す |
| 家族への給与や、家事と共用の支出が多い | 事業の経費と生活費の線引きが見えにくい | 勤務の実態や按分の決め方を記録しておく |
同じ資料には、事業所得のある個人について、1件当たりの申告漏れ所得金額が大きい業種の上位10も載っています。経営コンサルタント、システムエンジニア、コンテンツ配信などのほか、バーやスナック、太陽光発電なども並んでいます。自分の業種が載っているかどうかより、「現金の取引がある」「経費の線引きがあいまいになりやすい」といった、その業種で誤りが起きやすい点を自分の帳簿で確かめるほうが役に立ちます。
申告をしていない年がある場合の進め方は、何年も確定申告してない個人事業主はどうなる?で解説しています。
仮の数字で見る、誤りが見つかったときの負担
税務調査で誤りが見つかると、その年だけでなく、さかのぼった年の分もまとめて直すことになります。どの年までさかのぼるかは調査の内容によって異なりますが、ここでは仮に3年分を直す場合で考えてみます。
毎年の売上が800万円、経費が500万円、所得が300万円の個人事業主が、自宅の家賃や車の費用の一部(年60万円)を、按分の根拠なく経費にしていたとします。所得税と住民税を合わせた負担を、仮に所得の20%として計算します。
| 項目 | 計算 | 金額(仮の数字) |
|---|---|---|
| 1年あたりに増える所得 | 経費から外れる60万円 | 60万円 |
| 3年分で増える所得 | 60万円×3年 | 180万円 |
| 3年分で増える税金(仮に20%) | 180万円×20% | 36万円 |
| 上乗せされるもの | 加算税・延滞税 | 誤りの内容と期間で変わる |
36万円に加えて、加算税や延滞税がかかります。国民健康保険料など、所得をもとに決まる負担が変わることもあります。家事按分そのものが認められないわけではなく、使っている割合を説明できる根拠があれば経費にできます。按分の決め方と根拠の残し方は、個人事業主の経費はどこまで?で紹介しています。
文書や電話で連絡が来たときの対応
件数が多いのは、実地調査より簡易な接触です。税務署から「申告内容についてのお尋ね」といった文書が届いたり、電話で確認を求められたりします。
連絡を受けたら、まず何を確かめたいのか(どの年の、どの所得や経費か)と、回答の期限を書き留めます。そのうえで、帳簿と領収書・請求書で、指摘された点を確かめます。誤りがあれば、修正申告で直します。誤りでない場合は、根拠となる資料を示して説明します。
文書を放っておくと、実地調査に進むことがあります。分からない点があれば、期限の前に税理士に相談してください。職員が訪問する実地調査の通知を受けた場合の段取りは、税務調査は税理士に頼むべき?で、通知から当日までの日程表としてまとめています。
来ても慌てない帳簿にするための1年の備え
税務調査で見られるのは、申告書の数字が、帳簿と通帳、領収書・請求書でつながっているかです。確率を下げることより、どの年の数字を聞かれても、資料ですぐに説明できる状態にしておくことが一番の備えになります。

- 毎月、通帳とクレジットカードの明細を記帳し、翌月の前半までに前の月を締める
- 領収書と請求書を月ごとに保存し、電子で受け取ったものは日付と取引先で探せるようにする
- 自宅や車など、家事と共用の支出は、按分の割合の決め方をメモにして残す
- 申告の前に、売上と主な経費を前年と比べ、大きく動いた科目に理由を書いておく
- 申告書の控え、帳簿、領収書・請求書を、決められた期間(帳簿は7年)残しておく
1年分をまとめて記帳すると、使った目的を思い出せない支出が増え、家事按分の根拠もあいまいになりがちです。毎月の記帳は、申告の手間を減らすだけでなく、税務署から聞かれたときの説明の材料にもなります。青色申告にすると、帳簿をつけることが前提になり、特別控除などの特典も受けられます。違いは青色申告のメリットとは?で解説しています。
確定申告を税理士にスポットで頼むと、何が変わるか
確定申告だけを税理士にスポットで頼むこともできます。その場合、税理士は1年分の通帳と領収書から帳簿を確かめ、経費の線引きや按分の割合について、根拠を確かめながら申告書を作ります。前年と比べて大きく動いた数字も、申告の前に理由を確かめておけます。
スポットの依頼で頼める範囲と、渡す資料の一覧は、確定申告を税理士に依頼するなら、いつまでに何を渡す?で紹介しています。費用が何で変わるかは、確定申告の税理士費用はどう決まる?をご覧ください。
スポットの依頼の後に顧問契約に切り替えると、毎月の記帳を確かめ、試算表で年の途中から所得と税金の見通しを立てられます。経費の判断に迷う支出も、その月のうちに相談できるため、決算の後に1年分を確かめ直す必要がなくなります。売上が伸びてきた方は、消費税の課税事業者になる時期や、法人成りの判断も、同じ数字をもとに考えられます。
当事務所の場合
奈須大貴公認会計士・税理士事務所では、公認会計士・税理士の奈須大貴が直接対応し、個人事業主の確定申告をスポットでお受けしています。資料をお預かりした後、帳簿と通帳、領収書・請求書を突き合わせ、経費の線引きや按分の根拠を確かめたうえで申告書を作ります。
確定申告の後に顧問契約へ進んだ方とは、毎月の記帳と試算表で数字を一緒に確かめ、年の途中で所得と納税額の見通しを立てます。青色申告への切り替えや、消費税・法人成りの判断も、その流れの中でご相談いただけます。顧問契約での支援内容は、税務顧問サービスのページでご案内しています。
一方で、「申告書の作成だけを、できるだけ安く依頼したい」という場合には、当事務所の進め方は合わない可能性があります。
よくあるご質問
税理士に申告を頼んでいれば、税務調査は来ませんか?
税理士に頼んでいても、調査の対象になることはあります。ただ、帳簿と資料がそろっていて、申告の数字の根拠を説明できる状態であれば、調査を受けても指摘を受けにくくなります。
白色申告なら、税務調査の対象になりにくいのですか?
白色申告でも帳簿をつけて保存する義務があり、税務調査の対象にもなります。青色か白色かより、帳簿と資料で数字を説明できるかが大切です。
税務調査が気になっている個人事業主の方へ
個人事業主に実地調査が来る確率は、国税庁の数字で単純に計算すると1%に届かない程度です。ただ、文書や電話での連絡はその十数倍あり、調査を受けると多くの人で誤りが見つかっています。確率の数字に安心するより、毎月の記帳と資料の保存で、聞かれたときに説明できる帳簿を作っておくことが一番の備えです。
「自分で申告してきたが、経費の線引きに自信がない」「税務署からの文書が届いて不安になった」という方は、現在の状況をお聞かせください。福岡市南区大橋を拠点に、福岡市全域と春日市・大野城市・那珂川市・太宰府市・筑紫野市に対応しており、オンラインでのご相談も可能です。

