粗利と限界利益の違いは?差が生まれる場所と、値引きした注文の判断での使い分け

粗利と限界利益の違いは、売上から引く費用です。粗利(売上総利益)は売上高から売上原価を引いた、決算書に載る利益です。限界利益は売上高から変動費(売上に比例して増える費用)だけを引いた、経営の判断に使うための利益で、決算書には載りません。

この記事では、公認会計士・税理士の奈須大貴が、粗利と限界利益の差がどこで生まれるのかを整理し、値引きした追加注文を受けるかどうかを判断する計算例で、2つの使い分けを解説します。

粗利と限界利益は、引く費用の分け方が違う

粗利は、費用を「売上原価」と「販売費及び一般管理費(以下、販管費)」に分けたうえで、売上原価だけを引きます。限界利益は、費用を「変動費」と「固定費」に分けたうえで、変動費だけを引きます。

項目粗利(売上総利益)限界利益
計算のしかた売上高 − 売上原価売上高 − 変動費
費用の分け方売上原価と販管費変動費と固定費
どこに載るか決算書(損益計算書)決算書には載らず、自社で計算する
向いている使い方他の期や他社との比較、商品やサービスの稼ぐ力の確認値引き、追加注文、外注するかどうかなど、売上や数量を変える判断

費用の分け方の軸が違うため、同じ会社でも、粗利と限界利益の金額は一致しないことがよくあります。粗利と営業利益の違いは、粗利と営業利益の違いは?2つの差の読み方と、利益が減った原因の分け方で解説しています。

2つの差は、どこで生まれるのか

粗利と限界利益の差は、「売上原価に入っている固定費」と「販管費に入っている変動費」から生まれます。

差が生まれる場所主な費用の例粗利と限界利益の関係
売上原価に入っている固定費工場や現場で働く月給制の従業員の人件費、工場の設備の減価償却費、工場の家賃この分だけ、限界利益が粗利より大きくなる
販管費に入っている変動費発送の運賃、販売手数料、決済手数料、売上に連動して払う広告費この分だけ、限界利益が粗利より小さくなる

業種ごとに見ると、次のような傾向があります。実際の区分は会社の会計方針によって異なります。

業種多い傾向
小売業・卸売業売上原価がほぼ仕入だけなので、粗利と限界利益は近い金額になりやすい
製造業・建設業売上原価に人件費や減価償却費が入るため、限界利益が粗利より大きくなりやすい
通信販売など発送の運賃や決済手数料が販管費に入るため、限界利益が粗利より小さくなりやすい

なお、社内の管理資料で「粗利」と呼んでいる数字が、実際には売上から材料費や外注費だけを引いた、限界利益に近いものであることもあります。社内で数字を比べるときは、どの費用を引いた数字なのかをそろえておくことが大切です。人件費が売上原価と販管費のどちらに入っているかで粗利がどう変わるかは、粗利に人件費は含まれる?計上先で変わる粗利率と、試算表での確かめ方で詳しく解説しています。

値引きした追加注文を受けるか、2つの見方で比べる

粗利と限界利益の使い分けが最も大きく分かれるのが、値引きを求められた追加注文の判断です。仮の数字で、ある製造業の会社の1か月を見てみます。

項目金額変動費か固定費か
売上高1,000万円
材料費400万円変動費
工場の人件費200万円固定費
工場の減価償却費など100万円固定費
売上原価の合計700万円
粗利300万円(粗利率30%)
発送の運賃50万円変動費
その他の販管費200万円固定費
営業利益50万円

この会社の変動費は、材料費400万円と運賃50万円の合わせて450万円です。限界利益は1,000万円 − 450万円 = 550万円で、限界利益率は55%になります。粗利の300万円とは、250万円の差があります。

ここに、取引先から「通常なら200万円分の製品を、35%値引きして130万円で買いたい」という追加注文が来たとします。

見方計算結論
粗利率で考える通常の売上原価率70%なら、200万円分の製品の原価は140万円。売上130万円 − 140万円 = −10万円赤字なので断る
限界利益で考える増える変動費は、材料費80万円(400万円の2割)と運賃10万円(50万円の2割)の90万円。売上130万円 − 90万円 = +40万円営業利益が40万円増える

工場の人員や設備に余力があり、この注文のために残業や人の追加が必要ないなら、工場の人件費や減価償却費は注文を受けても増えません。その場合、正しいのは限界利益の見方です。実際に受けた後の数字を並べると、次のようになります。

項目受ける前受けた後
売上高1,000万円1,130万円
売上原価700万円780万円
粗利300万円350万円
販管費250万円260万円
営業利益50万円90万円

粗利率で考えると赤字に見えた注文でも、受けた後は決算書の粗利も営業利益も増えます。売上原価のうち、工場の人件費や減価償却費は注文の量にかかわらず発生しているため、粗利率をそのまま当てはめると、増えない費用まで引いてしまうのです。

限界利益だけで判断してはいけない場面

一方で、限界利益がプラスなら、どんな値引きでも受けてよいわけではありません。次のような場面では、慎重な判断が必要です。

場面理由
工場や現場に余力がない残業代や外注、人の追加が必要になると、固定費だと思っていた費用が増える
通常の取引先に値引きが知られるおそれがある他の取引先から同じ値引きを求められると、全体の限界利益が下がる
値引きした注文の割合が大きくなる固定費をまかなうのは限界利益なので、すべての注文を値引きすると固定費を払いきれない

3つ目を上の会社で確かめると、通常の注文1,000万円分をすべて35%引きの650万円で売った場合、変動費450万円を引いた限界利益は200万円です。固定費500万円を払えず、300万円の赤字になります。値引きした注文は、通常の注文で固定費をまかなえていることを前提に、余力の範囲で受けるものです。

自社の試算表で、限界利益を計算する手順

限界利益は決算書に載らないため、自社で計算します。次の手順で進めると、毎月の試算表からも求められます。

手順やること
1売上原価の内訳(製造原価報告書や完成工事原価報告書があればその内訳)を確かめる
2売上原価の中から、材料費、仕入、案件ごとの外注費など、量に比例して増える費用を拾う
3販管費の中から、運賃、販売手数料、決済手数料など、売上に比例して増える費用を拾う
42と3の合計を変動費とし、売上高から引いて限界利益を出す

迷う費用は、固定費として扱っておくと、限界利益が少なめに出るため、安全な側で判断できます。限界利益率が分かれば、損益分岐点や、人件費が増えたときに必要な売上も計算できます。損益分岐点の計算手順と使い方は、損益分岐点をわかりやすく|試算表での計算手順と、採用や値下げの判断への使い方で解説しています。人件費の増加に必要な売上を限界利益率で計算する例は、2026年福岡県の最低賃金は1,114円へ|人件費増で必要な売上はいくら?で紹介しています。

毎月の試算表で粗利をどう確かめるかは、試算表の見方|経営者が毎月5分で確認する5つの順番で解説しています。

当事務所の場合

奈須大貴公認会計士・税理士事務所では、公認会計士・税理士の奈須大貴が直接対応します。顧問契約では月次決算を行い、毎月の試算表をもとに、売上、粗利、固定費、営業利益の動きを経営者と一緒に確認しています。

値引きの依頼や追加注文、外注するかどうか、値上げのタイミングなど、試算表だけでは答えが出ない判断には、変動費と固定費を分けて限界利益で計算し、判断の材料を整える財務コンサルの支援も行っています。財務コンサルで毎月行うことは、財務コンサルとは?税務顧問との違いと、中小企業で毎月行うことで解説しています。年間の利益と納税額は第2四半期頃から見通しを立て、第3四半期で精度を高めて決算に備えます。

一方で、「決算と申告だけを、できるだけ安く依頼したい」という場合には、当事務所は合わない可能性があります。支援の内容は、税務顧問サービスのページでご案内しています。

値引きや追加注文の判断に迷っている方へ

粗利は決算書で他の期や他社と比べるための利益、限界利益は売上や数量を変える判断に使うための利益です。値引きした注文を受けるかどうかは、粗利率ではなく、その注文で増える変動費を引いた限界利益で考え、余力と他の取引先への影響も合わせて確かめてください。

「値引きを求められているが、受けてよいか判断できない」「自社の変動費と固定費を分けて、限界利益を出してみたい」という方は、直近の試算表や決算書をもとに状況をお聞かせください。今の税理士に伝える前の段階でも相談でき、相談しただけで今の顧問契約を終える必要はありません。福岡市南区大橋を拠点に、福岡市と春日市・大野城市・那珂川市・太宰府市・筑紫野市などの近郊に対応しており、オンラインでの面談も可能です。


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