損益分岐点とは、利益がちょうどゼロになる売上高のことです。売上がこの金額を上回れば黒字、下回れば赤字になり、「固定費 ÷ 限界利益率」で求めます。計算そのものは簡単ですが、自社の数字で使うには、試算表の費用を「売上に比例して増える費用」と「売上が変わっても増えない費用」に分ける作業が欠かせません。
この記事では、公認会計士・税理士の奈須大貴が、自社の試算表から損益分岐点を計算する手順と計算式のまとめ、採用や値下げを考えるときの使い方を解説します。
損益分岐点を理解するための3つの言葉
損益分岐点の計算には、次の3つの言葉が出てきます。
| 言葉 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 変動費 | 売上に比例して増える費用 | 仕入、材料費、案件ごとの外注費、販売手数料、発送の運賃 |
| 固定費 | 売上が変わっても、すぐには増えたり減ったりしない費用 | 人件費、家賃、リース料、減価償却費、保険料 |
| 限界利益 | 売上から変動費を引いた利益。この中から固定費を払い、残りが利益になる | 売上100円、変動費60円なら、限界利益は40円 |
限界利益を売上で割ったものを、限界利益率といいます。上の例なら40円 ÷ 100円で40%です。売上が100円増えるたびに、固定費を払う元手が40円増える、という意味になります。
損益分岐点は、この限界利益がちょうど固定費と同じ金額になる売上高です。だから「固定費 ÷ 限界利益率」で求められます。
計算例:売上1億円の会社の損益分岐点
仮の数字で計算してみます。1年間の数字が次のような会社です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 売上高 | 1億円 |
| 変動費 | 6,000万円 |
| 限界利益 | 4,000万円(限界利益率40%) |
| 固定費 | 3,600万円 |
| 営業利益 | 400万円 |
損益分岐点は、固定費3,600万円 ÷ 限界利益率40% = 9,000万円です。今の売上1億円は、損益分岐点を1,000万円上回っています。
今の売上が損益分岐点をどれだけ上回っているかを、率で表したものを安全余裕率といいます。この会社では、(1億円 − 9,000万円)÷ 1億円 = 10%です。言い換えると、売上が1割下がると、利益がゼロになります。
自社の試算表で計算する手順
損益分岐点を自社の数字で計算するには、次の順番で進めます。
| 手順 | やること |
|---|---|
| 1 | 直近1年間の損益計算書を用意する(決算書、または直近12か月分の試算表) |
| 2 | 売上原価と販管費の科目を、1つずつ変動費と固定費に分ける |
| 3 | 変動費の合計を売上高で割り、1から引いて限界利益率を出す |
| 4 | 固定費の合計を限界利益率で割る |
いちばん手間がかかるのは手順2です。科目ごとの分け方の目安は、次のとおりです。
| 科目 | 多くの会社での分け方 | 迷いやすい点 |
|---|---|---|
| 仕入高、材料費 | 変動費 | 在庫の増減を反映した売上原価で考える |
| 外注費 | 案件ごとに発注するなら変動費 | 毎月決まった額を払う外注は固定費 |
| 販売手数料、発送の運賃、決済手数料 | 変動費 | 販管費に入っていても変動費として扱う |
| 給与、賞与、法定福利費 | 固定費 | 売上原価に入っている現場の人件費も、月給制なら固定費 |
| 家賃、リース料、保険料、減価償却費 | 固定費 | |
| 水道光熱費、消耗品費 | 固定費として扱うことが多い | 製造業で売上に比例して大きく動くなら変動費 |
| 広告宣伝費 | 固定費として扱うことが多い | 売上に連動して出す広告なら変動費 |
完璧に分ける必要はありません。迷う科目は固定費に入れておくと、損益分岐点が少し高めに出るため、判断を誤っても安全な側になります。この科目ごとに分ける方法は簡便な方法ですが、経営の判断に使うには十分なことがほとんどです。売上原価に入っている人件費の扱いは、粗利に人件費は含まれる?計上先で変わる粗利率と、試算表での確かめ方も参考にしてください。
月ごとの損益分岐点を知りたいときは、1年間の固定費を12で割って月の固定費にし、同じ限界利益率で割ります。上の例なら、月300万円 ÷ 40% = 月750万円です。
損益分岐点の計算式のまとめ
損益分岐点に関係する計算式を、上の会社(売上高1億円、変動費6,000万円、固定費3,600万円)の数字で並べます。変動費と固定費さえ分けておけば、どれも同じ数字から計算できます。
| 求めるもの | 計算式 | 上の会社の場合 |
|---|---|---|
| 限界利益率 | (売上高 − 変動費)÷ 売上高 | (1億円 − 6,000万円)÷ 1億円 = 40% |
| 損益分岐点売上高 | 固定費 ÷ 限界利益率 | 3,600万円 ÷ 40% = 9,000万円 |
| 損益分岐点比率 | 損益分岐点売上高 ÷ 売上高 | 9,000万円 ÷ 1億円 = 90% |
| 安全余裕率 | (売上高 − 損益分岐点売上高)÷ 売上高 | (1億円 − 9,000万円)÷ 1億円 = 10% |
| 目標利益を出すのに必要な売上高 | (固定費 + 目標利益)÷ 限界利益率 | 目標利益1,000万円なら(3,600万円 + 1,000万円)÷ 40% = 1億1,500万円 |
| 損益分岐点の販売数量 | 固定費 ÷ 1個あたりの限界利益 | 単価1万円・1個あたりの変動費6,000円なら 3,600万円 ÷ 4,000円 = 9,000個 |
損益分岐点比率と安全余裕率は、足すと100%になります。損益分岐点比率が低いほど、売上が下がっても赤字になりにくい会社です。商品の数で考えたい場合は、販売数量の式を使います。9,000個 × 1万円 = 9,000万円で、損益分岐点売上高と一致します。
エクセルで計算するなら、A列に項目、B列に金額を入れ、B1に売上高、B2に変動費、B3に固定費を入力します。損益分岐点売上高は「=B3/((B1-B2)/B1)」、損益分岐点比率は「=B3/((B1-B2)/B1)/B1」で求められます。固定費の欄を書き換えるだけで、次の章のような「採用したら」「家賃を下げたら」の計算もすぐにできます。
損益分岐点を、経営の判断に使う
損益分岐点の価値は、計算した数字そのものよりも、何かを変えたときに損益分岐点がどう動くかを確かめられることにあります。上の会社を例に、3つの場面を見てみます。
| 場面 | 変わる数字 | 新しい損益分岐点 | 今の利益400万円を保つのに必要な売上 |
|---|---|---|---|
| 年400万円かかる人を1人採用する | 固定費が3,600万円から4,000万円に | 4,000万円 ÷ 40% = 1億円 | (4,000万円 + 400万円)÷ 40% = 1億1,000万円 |
| 家賃を月10万円下げる | 固定費が3,600万円から3,480万円に | 3,480万円 ÷ 40% = 8,700万円 | (3,480万円 + 400万円)÷ 40% = 9,700万円 |
| すべての商品を5%値下げする | 限界利益率が40%から約36.8%に | 3,600万円 ÷ 約36.8% = 約9,771万円 | (3,600万円 + 400万円)÷ 約36.8% = 約1億857万円 |
1人の採用では、今の売上1億円がそのまま損益分岐点になります。利益を保つには、売上を1,000万円増やす必要があります。採用を考えるときは、その人が加わることで1,000万円の売上増が見込めるかどうかが、判断の目安になります。
値下げの影響は、思った以上に大きく出ます。100円の商品を95円にすると、変動費の60円は変わらないため、限界利益は40円から35円に減ります。同じ利益を得るには、販売数量を40円 ÷ 35円 ≒ 1.14倍、つまり約14%増やす必要があります。5%の値下げで、数量を5%増やせば済むわけではありません。値下げ後の価格で計算すると、必要な売上は約1億857万円で、今より約857万円多く売る必要があります。
人件費が増えたときに必要な売上の考え方は、2026年福岡県の最低賃金は1,114円へ|人件費増で必要な売上はいくら?でも、限界利益率を使って計算しています。
損益分岐点を使うときの注意点
損益分岐点は便利な目安ですが、次の点に注意して使います。
| 注意点 | 理由 |
|---|---|
| 固定費は、売上が大きく変わると段階的に変わる | 売上が増えれば人や設備を増やす必要が出てくるため、計算した範囲から大きく離れた売上では当てはまらない |
| 限界利益率は、商品の組み合わせで変わる | 限界利益率の高い商品と低い商品の売れ方が変わると、会社全体の率も変わる |
| 損益分岐点は「お金の分岐点」ではない | 借入金の元金の返済は費用にならないため、損益分岐点ちょうどの売上では、返済の分だけ預金が減る |
3つ目は特に大切です。借入金の返済がある会社では、利益がゼロでは返済の元手が足りません。利益と預金の差を1年分の数字で分解する計算例は、財務コンサルとは?税務顧問との違いと、中小企業で毎月行うことで紹介しています。利益だけでなく、お金の流れも合わせて確かめる考え方は、利益は出ているのに資金が不足…?“お金の流れ”を見える化して経営を安定させる方法で紹介しています。
当事務所の場合
奈須大貴公認会計士・税理士事務所では、公認会計士・税理士の奈須大貴が直接対応します。顧問契約では月次決算を行い、毎月の試算表をもとに、売上、粗利、固定費、営業利益や現預金の動きを、経営者と一緒に確認しています。
採用、昇給、値上げ、出店や設備投資を考えるときには、この記事で紹介したように、変える数字を置き換えて損益分岐点や必要な売上を計算し、判断の材料をつくる財務コンサルの支援も行っています。財務コンサルで毎月行うことは、財務コンサルとは?税務顧問との違いと、中小企業で毎月行うことで解説しています。年間の利益と納税額は第2四半期頃から見通しを立て、第3四半期で精度を高めて決算に備えます。
一方で、「決算と申告だけを、できるだけ安く依頼したい」という場合には、当事務所は合わない可能性があります。支援の内容は、税務顧問サービスのページでご案内しています。
採用や値下げを数字で判断したい方へ
損益分岐点は、固定費を限界利益率で割って求めます。自社の試算表の費用を変動費と固定費に分けてしまえば、採用や値下げ、家賃の見直しで、必要な売上がどう変わるかをすぐに確かめられます。まずは、直近1年間の決算書で計算してみてください。
「費用の分け方に自信がない」「採用や値下げの前に、必要な売上を一緒に確かめたい」という方は、直近の決算書や試算表をもとに状況をお聞かせください。今の税理士に伝える前の段階でも相談でき、相談しただけで今の顧問契約を終える必要はありません。福岡市南区大橋を拠点に、福岡市と春日市・大野城市・那珂川市・太宰府市・筑紫野市などの近郊に対応しており、オンラインでの面談も可能です。

