粗利に人件費は含まれる?計上先で変わる粗利率と、試算表での確かめ方

粗利(売上総利益)に人件費が含まれるかどうかは、その人件費を売上原価と販売費及び一般管理費(以下、販管費)のどちらに計上しているかで決まります。粗利は売上高から売上原価を引いた利益なので、売上原価に入っている人件費は粗利の計算で引かれ、販管費に入っている人件費は引かれません。

つまり、「粗利に人件費が入るか」には、会社ごとに答えがあります。この記事では、人件費の計上先によって粗利率がどれほど変わるかを計算例で示し、自社の試算表で人件費の置き場所を確かめる手順と、人件費を粗利の何割かで見る方法を紹介します。

人件費は「どこに計上されているか」で粗利に入るかが決まる

売上原価に入る人件費は、売上をつくる現場の仕事に直接かかわる人の人件費です。事務、営業、経営者の報酬など、会社全体を回すための人件費は販管費に入ります。

業種ごとの一般的な例は、次のとおりです。実際の区分は会社の会計方針によって異なります。

業種売上原価に入ることが多い人件費販管費に入ることが多い人件費
製造業工場で製造に携わる従業員の給与、賞与、法定福利費(労務費として製造原価に入る)営業、事務、役員の人件費
建設業現場で施工や施工管理に携わる従業員の給与など(完成工事原価に入る)本社の事務、営業、役員の人件費
小売業・卸売業原価は商品の仕入が中心で、人件費は入れないことが多い店舗や倉庫、事務、営業の人件費
飲食業原価は食材が中心で、人件費は入れないことが多い店舗スタッフ、本部の人件費
サービス業(IT・制作・コンサルなど)案件に直接かかわる人の人件費を原価に入れる会社があるすべての人件費を販管費に入れる会社もある

製造業や建設業では、現場の人件費を原価に入れるのが一般的です。一方、サービス業では会社によって扱いが分かれるため、同じ業種の会社どうしでも粗利の意味が揃っていないことがあります。

同じ会社でも、人件費の置き場所で粗利率は大きく変わる

人件費の置き場所でどれほど粗利率が変わるのかを、仮の数字で確かめます。1か月の売上が1,000万円、材料費と外注費が400万円、現場の人件費が250万円、事務と営業の人件費が100万円、その他の販管費が150万円の会社です。ここでは、月末の在庫や仕掛品はないものとします。

項目A:現場の人件費を原価に入れるB:人件費をすべて販管費に入れる
売上高1,000万円1,000万円
売上原価650万円(材料・外注400万円+現場の人件費250万円)400万円(材料・外注のみ)
粗利350万円600万円
粗利率35%60%
販管費250万円(事務・営業の人件費100万円+その他150万円)500万円(人件費350万円+その他150万円)
営業利益100万円100万円

同じ会社の同じ月の数字でも、粗利率は35%にも60%にもなります。一方で、営業利益はどちらも100万円で変わりません。人件費の置き場所が変えるのは粗利の「見え方」であり、会社の稼ぐ力そのものではありません。

なお、製造業や建設業で月末や期末に在庫、仕掛品、未完成の工事がある場合は、原価に入れた人件費の一部がその金額に含まれます。この場合は、人件費の置き場所によって、その月やその期の利益の金額も変わります。

置き場所の違いで起きやすい読み違い

人件費の置き場所を意識せずに粗利率を見ると、判断を誤ることがあります。実務でよく見かけるのは、次の3つの場面です。

同業他社や業界の平均と比べるとき

業界の平均値や同業他社の粗利率と比べて「うちは低い」「うちは高い」と判断する前に、相手が人件費を原価に入れているかを確かめる必要があります。上の例のように、計上先が違うだけで粗利率は25ポイントも動きます。基準が揃っていない数字どうしを比べても、判断の材料にはなりません。

年の途中で計上先が変わったとき

経理の担当者や税理士事務所が変わった、会計ソフトを入れ替えた、勘定科目を見直したといったきっかけで、人件費の計上先が変わることがあります。すると、前年の同じ月と比べたときに、粗利率が急に上がったり下がったりして見えます。数字が大きく動いたときは、まず科目の付け方が前年と同じかを確かめます。

外注を社員に切り替えたとき

外注費は売上原価に入れることが多い費用です。外注していた仕事を社員の採用に切り替え、その社員の給与を販管費に入れると、原価が減るので粗利率は上がって見えます。しかし、外注費と同じだけ人件費が増えていれば、営業利益は変わっていません。粗利率の改善に見える変化が、実際にはお金の流れを付け替えただけということもあります。

自社の試算表で、人件費の置き場所を確かめる

自社の人件費がどこに入っているかは、毎月の試算表や決算書で確かめられます。次の4か所を順に見てください。

確かめる場所見る科目分かること
売上原価の内訳(製造業は製造原価報告書、建設業は完成工事原価報告書)労務費、賃金、給料手当、法定福利費など原価に入っている人件費の金額
販管費の内訳役員報酬、給料手当、賞与、法定福利費、福利厚生費など販管費に入っている人件費の金額
前年の同じ月の試算表上の2か所と同じ科目人件費の置き場所が、年をまたいで揃っているか
給与の支払いの記録(給与台帳など)現場と事務・営業に分けた合計額試算表の金額と合っているか、計上先の誤りがないか

確かめた結果は、「原価に入っている人件費」「販管費に入っている人件費」「人件費の合計」の3つの数字にまとめておくと、次の章の確認に使えます。

人件費は「粗利の何割か」で見る

人件費の置き場所の影響を受けずに数字を見るには、人件費をいったんすべて足し、人件費を引く前の粗利に対して何割になっているかを計算します。上の例では、人件費の合計350万円を、人件費を引く前の粗利600万円で割って、約58%です。

粗利に占める人件費の割合は、労働分配率と呼ばれる指標に近い考え方です(労働分配率の分母には、粗利のほかにも複数の計算方法があります)。大切なのは業界の平均と比べることよりも、自社の数字を毎月同じ計算で並べることです。

月人件費を引く前の粗利人件費の合計粗利に占める人件費の割合
4月600万円350万円58.3%
5月580万円350万円60.3%
6月560万円360万円64.3%

この例では、粗利が少しずつ減る一方で、昇給などで人件費が増え、3か月で割合が6ポイント上がっています。粗利率だけを見ていると気づきにくい変化でも、この表なら「粗利が減ったのか」「人件費が増えたのか」を分けて確かめられます。

採用や昇給を考えるときは、この割合を保つにはどれだけの粗利が必要かを逆算します。最低賃金の引き上げで人件費が増える場合に必要な売上を計算する方法は、2026年福岡県の最低賃金は1,114円へ|人件費増で必要な売上はいくら?で解説しています。毎月の試算表の中で粗利をどう確かめるかは、試算表の見方|経営者が毎月5分で確認する5つの順番で紹介しています。

当事務所の場合

奈須大貴公認会計士・税理士事務所では、公認会計士・税理士の奈須大貴が直接対応します。顧問契約では、月次決算を通じて毎月の試算表を作り、売上や粗利が計画どおりか、人件費をはじめとする固定費が粗利の範囲に収まっているかを、経営者と一緒に確認します。

試算表を経営の判断に使うには、人件費をどの科目に入れるかを会社の業種と見たい数字に合わせて決め、毎月同じ基準で計上することが前提になります。採用や昇給、値上げを考える場面で、粗利と人件費の関係を数字で確かめる財務コンサルの相談にも対応しています。

一方で、「決算と申告だけを、できるだけ安く依頼したい」という場合には、当事務所は合わない可能性があります。顧問契約での支援内容は、税務顧問サービスのページでご案内しています。

よくあるご質問

役員報酬は粗利の計算に入りますか?

多くの会社では、役員報酬は販管費に計上されるため、粗利の計算では引かれません。人件費を粗利の何割かで見るときは、役員報酬を含めた割合と含めない割合の両方を出しておくと、経営者自身の報酬をどこまで上げられるかを考える材料になります。

アルバイトやパートの給与はどこに入りますか?

雇用の形ではなく、仕事の内容で考えます。製造や施工の現場で働く人の給与は原価に、店舗の接客や事務を担う人の給与は販管費に入れるのが一般的です。会社の中で基準を決めて、毎月同じ扱いにすることが大切です。

粗利と人件費の関係を、毎月確かめたい方へ

粗利に人件費が含まれるかは、会社が人件費をどこに計上しているかで決まります。粗利率を見るときは、まず自社の人件費の置き場所を確かめ、比べる相手と基準を揃えたうえで、人件費が粗利の何割になっているかを毎月確認してみてください。

「試算表の粗利率が、何を表しているのか分からない」「人件費が増えても利益が残るのか確かめたい」という方は、現在の試算表をもとに状況をお聞かせください。今の税理士に伝える前の段階でも相談でき、相談しただけで今の顧問契約を終える必要はありません。福岡市南区大橋を拠点に、福岡市と春日市・大野城市・那珂川市・太宰府市・筑紫野市などの近郊に対応しており、オンラインでの面談も可能です。


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