有料職業紹介事業の資産要件(財産的基礎)は、新規の許可では「基準資産額が500万円×事業所の数以上」と「現金・預金が150万円以上(2か所目から1か所ごとに60万円を加算)」の2つ、許可の更新では「基準資産額が350万円×事業所の数以上」の1つです。更新では現金・預金の要件がなくなる一方で、設立からの赤字が積み重なると基準資産額を下回ることがあります。
この記事では、公認会計士・税理士の奈須大貴が、新規と更新の基準の違いと、更新の前の決算で何を確かめればよいかを、計算例とともに解説します。
新規と更新の資産要件
基準資産額は、貸借対照表の資産の総額から、繰延資産と営業権(のれん)を除き、負債の総額を引いた額です。新規と更新の基準を、事業所の数ごとに並べると次のとおりです。
| 事業所の数 | 新規:基準資産額 | 新規:現金・預金 | 更新:基準資産額 | 更新:現金・預金 |
|---|---|---|---|---|
| 1か所 | 500万円以上 | 150万円以上 | 350万円以上 | 要件なし |
| 2か所 | 1,000万円以上 | 210万円以上 | 700万円以上 | 要件なし |
| 3か所 | 1,500万円以上 | 270万円以上 | 1,050万円以上 | 要件なし |
新規の基準は、厚生労働省の職業紹介事業パンフレット-許可・更新等手続マニュアル-(令和7年4月)に、更新の読み替えは職業紹介事業業務運営要領・様式・各種報告書から開ける業務運営要領の許可基準に載っています。許可の有効期間は、新規が3年、更新後が5年で、更新の申請は有効期間が満了する日の3か月前までに行います。
更新で気をつけたいのは、赤字の積み重なり
更新では現金・預金の要件がないため、確かめる数字は基準資産額の1つです。つまり、借入で手元のお金を増やしても判定には影響せず、見るべきは純資産がどれだけ減ったかです。
資本金500万円ちょうどで設立し、事業所が1か所の会社なら、繰延資産がない場合でも、設立からの赤字の合計が150万円を超えると、更新の基準の350万円を下回ります。人材紹介は、求職者の集客やコンサルタントの採用に先にお金がかかり、売上が立つまでに時間がかかることが多いため、新規の許可から最初の更新までの3年間で、この150万円の余裕が想定より早くなくなることがあります。
仮の数字で、更新の基準を満たすか確かめる
事業所が1か所で、資本金500万円で設立した会社の、更新の判定に使う決算書を例にします。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 資本金 | 500万円 |
| 設立からの損益の累計(繰越利益剰余金) | −140万円 |
| 純資産の合計 | 360万円 |
| 資産のうち繰延資産(開業費) | 30万円 |
| 基準資産額(360万円 − 30万円) | 330万円 |
純資産だけを見ると360万円で、350万円を上回っています。ところが、開業費を繰延資産として資産に計上しているため、基準資産額は330万円となり、更新の基準に20万円足りません。創業期の会社は開業費や創立費を繰延資産にしていることが多いので、純資産ではなく基準資産額で確かめることが大切です。
判定に使う決算を先に確かめる
審査で見るのは、更新を申請する時点で直近の年度決算です。新規の許可の有効期間は3年なので、許可を受けた時期と決算月によっては、最初の更新で設立から2期目か3期目の決算が使われます。
| 項目 | 3月決算の会社の例 |
|---|---|
| 許可の有効期間の満了日 | 2027年12月31日 |
| 更新の申請期限 | 2027年9月30日 |
| 判定に使う決算 | 2027年3月期(申告を終えた後に申請する場合) |
| 見通しを立てたい時期 | 2026年9月末(2027年3月期の第2四半期末) |
判定に使う期が分かったら、その期の第2四半期の試算表で決算の見込みを立て、基準資産額を試算します。第3四半期には見込みの精度を上げ、不足しそうなら、決算日までに利益を残す、増資を済ませておく、といった手を決めます。決算日までに増資を終えれば、年度決算そのもので要件を満たせるので、後で説明する月次決算の手続は要りません。
事業所の数と、派遣の許可も持つ場合
基準額は事業所の数に比例するため、事業所を増やした会社は、更新の時に必要な額も増えています。2か所なら700万円、3か所なら1,050万円です。事業所を増やす計画があるときは、その時点で次の更新の基準も計算しておくと安心です。
労働者派遣事業の許可も持っている会社は、同じ決算書で派遣の資産要件も満たす必要があります。派遣の基準は、基準資産額2,000万円×派遣の事業所の数などと職業紹介より高いため、多くの場合は派遣の更新の方が先に問題になります。どちらの許可の有効期間がいつ満了するかを並べ、早い方に合わせて見通しを立てます。
決算で満たせないとき
決算日を過ぎてから不足が分かった場合は、増資などで基準資産額を増やした後の中間決算か月次決算を作り、公認会計士の確認を受けて申請します。
| 申請の種類 | 中間決算・月次決算に付けるもの |
|---|---|
| 新規の許可 | 公認会計士または監査法人の監査証明 |
| 許可の更新 | 監査証明、または合意された手続実施結果報告書 |
先ほどの例で20万円が不足する場合、決算後に増資して、増資後の月末で月次決算を締め、その月次決算に監査証明か合意された手続実施結果報告書を付けて申請する流れになります。月次決算は毎月の試算表をそのまま使えるとは限らず、年度の決算と同じ考え方で、法人税等の見積りなども反映させて作る必要があります。
当事務所の場合
奈須大貴公認会計士・税理士事務所では、公認会計士・税理士の奈須大貴が、有料職業紹介事業の許可申請と更新に必要な監査証明と合意された手続に直接対応しています。資料の共有と打ち合わせはオンラインで行えるため、福岡市の外の会社からも依頼できます。内容は有料職業紹介事業の監査証明・合意された手続のページでご案内しています。
顧問として毎月の数字を見ている会社では、年間の利益と納税額を第2四半期頃から見通し、第3四半期で精度を高めて決算に備えています。職業紹介の許可を持つ会社なら、この見通しに基準資産額の試算を加えることで、更新の期の決算で要件を満たせるかを早めに確かめられます。継続的な支援は税務顧問サービスのページでご案内しています。
最初の更新を控えている会社の方へ
有料職業紹介の更新で確かめる数字は基準資産額の1つですが、繰延資産や事業所の数によって、思っていたより基準が近いことがあります。まずは直近の決算書で基準資産額を計算し、次の更新でどの期の決算が使われるかを確かめてみてください。
「設立から赤字が続いていて、更新の基準を満たせるか分からない」「直近の決算で基準資産額が足りなかった」という方は、決算書と許可の有効期間を確認したうえで、決算で満たす方法と月次決算で対応する方法のどちらが合うかを一緒に整理します。

