IPO準備における会計上の論点 #001 「税務会計から企業会計へ」

こんにちは。奈須大貴です。

今日から「IPO準備における会計上の論点」という連載を始めようと思います。

一般的に難しいとされる論点(税効果会計、固定資産の減損会計など)もありますが、各論の細かな解説をするのではなく、IPO準備会社の経理担当者が最低限知っておいたほうがいいと思う論点を私の独断と偏見で解説していきます。

あくまでも、これから上場会社になることを目標とされるIPO準備会社の経理担当者が最低限、知っておきたい知識を紹介する目的です。


さて、第1回となる今回は、「税務会計から企業会計へ」です。

そもそも、非上場企業であっても、会計事務所や税理士事務所に会計・税務に関する業務は依頼していたり、自社の経理・財務・総務部門(名称は会社によって違うと思いますが。)などで会計業務は行っているはずです。

にもかかわらず、「IPO準備のフェーズにすすむだけで、上場企業になるだけで、なぜ会計上の論点が生じてしまうのか?」、「今も会計はちゃんとやっているよ!」そんな風に思う方も多いでしょう!

少し詳しく解説していきます。

非上場企業は、「税務会計」を行っていることが一般的です。
税務会計とは、税務申告のために税法に沿った会計処理を行うことです。
もっと簡単に言うと、税務署にお叱りを受けないように(ある日、税務署が税務調査にやって、追加で税金を納めなければならないということがないように)日々の会計業務を行っているのです。
また、後述する企業会計よりも簡便的な会計処理が認められていることも特徴です。

しかし、上場企業には、「企業会計」に沿った会計処理を行うことが求められます。
(もちろん、上場企業であっても税法は当然に守らなければばりません)
少しマニアックですが、「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」と呼ばれます。
具体的には、「収益認識に関する会計基準」、「時価の算定に関する会計基準」、「金融商品に関する会計基準」、「棚卸資産の評価に関する会計基準」などがあります。
なんだか、難しそうですね。。。
ここでは、税務会計と比べると難しくて、厳密な会計処理が必要だという理解で大丈夫です!


ここまでをまとめてみましょう!
・IPOのためには、「税務会計」から「企業会計」へ移行する必要がある。
・「企業会計」は「税務会計」よりも難易度が高い。


では、税務会計と企業会計の違いについて簡単にみていきます。
違いはたくさんあるのですが、代表的なものが将来発生する費用・損失の計上時期です。

税務会計では、将来発生するであろう費用・損失(発生しないかもしれない費用・損失)を先に計上することは基本的には認められていません(「債務確定主義」といいます)。
当然ですが、納める税金が少なくなってしまうからです。
税務会計は、税務署のための会計とも言えます。
税務署の視点では、「計上すべきでない費用を計上して税金を少なくしていないか(脱税)」が気になるわけです。

しかし、企業会計では、将来発生するであろう費用・損失を見積もって計上することが求められます(「保守主義の原則」といいます)。
これは、上場企業では株主をはじめとする利害関係者が非常に多く存在しますので、将来多額の損失が出る可能性があるのであれば、利害関係者はその情報を早く知っておきたいはずです。そうすれば、利害関係者が損失を被る可能性を低くすることができるからです。
企業会計は、利害関係者を守るための会計とも言えます。
利害関係者の視点では、「本来は存在しない収益を計上したり、計上すべき費用を計上せずに利益を多く見せる行為(「粉飾決算」といいます)が行われていないか」が気になるわけです。

そして、この将来の費用・損失の計上時期の違いによって、「引当金」、「減損」、「税効果」といった様々な論点が生じてくることになります。



ここまでをまとめてみましょう!
・「税務会計」と「企業会計」の違いの代表例として、将来の費用・損失の計上時期があげられる。
・そのため、「企業会計」を導入すると、「引当金」、「減損」、「税効果」など対応しないといけないことが増える。

・「税務会計」は税務署のための会計、「企業会計」は利害関係者のための会計。


いかがだったでしょうか?
今回は、IPO準備のための会計上の論点として「税務会計から企業会計へ」を取り上げてみました。
次回は、「発生主義」について、解説していきます。



最後に、当事務所では、IPO準備会社様に向けた以下のサービスを提供しています。

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