【税務Q&A】一つの建物の取得費を実額取得費と概算取得費で計算することの可否

【質問】

 甲は、居住用兼賃貸用の土地と建物を譲渡したが、建物の取得費の計算において、次のような計算をすることができるか。
(1)居住用部分については、居住用部分に係る実際の取得価額等を基に、所得税法38条2項2号の規定に従い、耐用年数の1.5倍の年数に応じて旧定額法に準じて計算した減価の額を控除して、実額取得費により計算する。
(2)賃貸用部分については、耐用年数を超えていることから帳簿価額の残存価額が1円になっているため、賃貸用部分に係る譲渡収入金額の5パーセント相当額(概算取得費)により取得費を計算する。

【回答】

 一つの建物の取得費の計算において、その一部については実額により、他の一部については概算取得費により取得費の計算を行うということはできないと考えられます。
 したがって、実額に基づく取得費(居住用部分の未償却残額+賃貸用部分の残存価額1円)をもって計算するか、建物全体の譲渡収入金額の5パーセント相当額(概算取得費)をもって計算するかのいずれかにより取得費を計算することになると考えられます。

【関連情報】

《法令等》

  • 所得税法38条1項
  • 所得税法38条2項
  • 租税特別措置法31条の4第1項
  • 所得税基本通達33-11の3
  • 所得税基本通達38-4の3
  • 租税特別措置法通達31の4-1
  • 平成24年12月11日付文書回答事例「一筆の土地の共有持分を別個の時期に相続と売買により取得し当該土地の単独所有者となった者が当該土地を譲渡した場合における譲渡所得の取得費の計算について」

【解説】

1 一つの資産の取得費の計算において、実額取得費と概算取得費を併用することは、一般的にはできないこととされています。例えば、取得費が不明な土地に造成工事を行って譲渡した場合などには、概算取得費に造成費を加算して取得費として計算することはできません。
2 ただし、例外的に、実額取得費と概算取得費を併用することが認められるケースとしては、借地権者が底地を取得した後に譲渡した場合に、底地部分については実額で、借地権部分については概算取得費を適用して、それぞれの取得費を計算することが認められています(所有者(底地権者)が借地権を取得して譲渡する場合も同様に認められています。)。この場合には、あたかも底地(所有権)と借地権という2つの資産を譲渡したものとみることができ、それぞれ収入金額だけでなく所有期間も別にして計算することから認められているものと考えられます(所基通33-11の3、38-4の3)。
3 また、共有持分を有していた土地について残りの共有持分を取得した後に譲渡したような場合、例えば、3分の1は父から相続(長期保有)で取得しており取得価額が不明で、3分の2は他の共有者から売買で取得し取得価額が判明しているときに、その後、この土地を譲渡したような場合には、やはり、取得時期や取得価額が異なる資産を一括で譲渡したケースであり、それぞれごとに譲渡所得の計算を行うことになりますから、3分の1について概算取得費、3分の2について実額により取得費を計算することができることとされています。
4 これに対して、ご質問の場合には、一体で取得し、一体で譲渡する一つの資産(建物)の譲渡所得に係る取得費の計算において、その取得費を所得税法38条2項の規定に従って計算するに当たり、業務の用に供されていた部分(同項1号)とそれ以外の部分(同項2号)とに分けて減価償却費相当額の控除を行うに過ぎません。
  したがって、取得時期の異なる資産で、実質的に2つの資産を譲渡したとみることができる上記2や3の場合とは異なりますから、賃貸用部分(業務用部分)の取得費(所得税法38条2項1号の規定による取得費)について概算取得費を適用し、居住用部分(非業務用部分)の取得費(同項2号の規定による取得費)は実額で計算するということは認められないものと考えられます。

【収録日】
令和 7年 7月16日
上記掲載内容は、作成時の法令を基に作成しております。このため、個々の掲載内容が最新の法令等に基づいているかは、利用者ご自身がご確認ください。

出典:TKC税務研究所


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