【質問】
A社(不動産業、6月決算)は、B社(大型商業施設経営)と賃貸借契約を結び、自社が所有する土地に賃貸用建物の建設を行いました。
しかし、工期の延長により建物は完成したものの、当初の引渡し予定日より約1ヶ月遅れたことにより、建設を請け負ったC社と揉めており、A社はC社より引渡しを受けておらず登記も未了の状態でした。
しかし、法人BからX年5月末までに大型商業施設を開業したいとの申し出を受け、損害賠償金の金額については、後日協議することとして、建物の引渡しを4月に受け(当初引渡予定日から2ヶ月遅れ)、5月中には開店することができました。
工事代金については、3回に分割して支払いを行う契約で、第1、2回目は滞りなく支払い(合計1億円)、引渡時の第3回目の支払いについては、X年4月25日に本来振り込むべき残金(1億円)から損害賠償請求額(1,000万円)を差し引いて振り込んでいます。
この損害賠償金の計算については、請負契約書にある当事者間で別途協議するとの規定があるものの、当社としてはとりあえず、賃貸開始の遅れによる逸失利益相当額等を損害賠償請求の最低金額として、C社に通知をしています。C社は、この損害賠償金額についても災害等の不可抗力によるものとして減額を求めて、現在も話し合いが続いています。
A社からの質問は次のとおりです。
(1)損害賠償金の収益計上について
損害賠償金については、当社が通知を行っただけであり、今後の話し合いによって損害賠償金額は変わる可能性があり、実際に支払を受けた日の属する事業年度の益金の額に算入するものと考えていますが、最低でも逸失利益相当額を差し引いて振込みを行っていることから、実現したものとして当期(X年6月期)の収益等に計上すべきか。
(2)建物の取得価額について
損害賠償金1,000万円については、引渡し遅延による工事代金の値引きと考え、当初の建物請負金額2億円から1,000万円を差し引いた1億9,000万円を建物の取得価額とすることができるか。
【回答】
1 法令等の規定
(1)損害賠償金の帰属の時期
他の者から支払を受ける損害賠償金(債務の履行遅滞による損害金を含む。以下2-1-43において同じ。)の額は、その支払を受けるべきことが確定した日の属する事業年度の益金の額に算入するのであるが、法人がその損害賠償金の額について実際に支払を受けた日の属する事業年度の益金の額に算入している場合には、これを認めるとされています(法基通2-1-43)。
この点については、同通達の解説書において、次のとおり記載されています。
相手方が他の者である場合には、そもそも相手方に損害賠償責任があるかどうかについて当事者間に争いがあることが少なくないし、仮に相手方に損害賠償責任があることが明確であるとしても、具体的にいかなる金額の損害賠償を受け得るかについては、当事者間の合意又は裁判の結果等を待たなければ確定しないのが普通である。さらに形式的にはその支払を受ける損害賠償金の額が確定したとしても、これについて具体的な給付を受けるまでは、なお確定的な収益といえるかどうか疑問なしとしない面が多々あるということである。
以上のような事情を踏まえて、法人が他の者から支払を受ける損害賠償金については、原則としてその支払を受けることが確定した時の収益とする(すなわち潜在的な損害賠償請求権の収益計上は要求しない。)が、法人がこれについて実際に支払を受けた時点で収益計上することとしているときは、税務上もこれを認めることとして、さらに弾力化が図られたのである。
(2)減価償却資産の取得価額(法令54〔1〕一)
減価償却資産の第48条から第50条まで(減価償却資産の償却の方法)に規定する取得価額は、次の各号に掲げる資産の区分に応じ当該各号に定める金額とする。
一 購入した減価償却資産 次に掲げる金額の合計額
イ 当該資産の購入の代価(引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税(関税法第二条第一項第四号の二(定義)に規定する附帯税を除く。)その他当該資産の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)
ロ 当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の額
2 ご質問に対する回答
(1)損害賠償金の収益の計上について
請負契約書において、損害賠償金については別途協議することとなっているものの、最低でも賃貸開始の遅れに伴う逸失利益相当額は請求できるとお考えのようです。
他の者から支払を受ける損害賠償金であること、C社としては不可抗力による遅延のため賠償金の減額を主張しているなど、損害賠償責任の程度に争いがあり、その金額も確定しておらず、未だ支払を受けるべきことが確定したとは判断できません。したがって、A社が第3回目の支払を一方的に減額して振り込んだ事実を以て、収益として確定したものではなく、A社において収益等の額に計上すべきとまでは言えないと考えられます。
(2)建物の取得価額について
請負契約書における損害賠償金は別途協議すると規定ぶりから、その内容は必ずしも明らかではありませんが、損害賠償金が確定した場合には、その内容により大きく2つに分けられるものと考えられます。
〔1〕工期の延長・引渡し遅延による工事代金の値引きの場合
工事代金の値引きということは、上記1(2)の建物の購入の代価が2億円から1,000万円値引きされたわけですから、建物の取得価額は1億9,000万円となるものと考えられます。
〔2〕引渡し遅延による逸失利益や損失の補てんの場合
引渡し遅延によりB社への賃貸の開始が遅れ、賃貸収入を得ることができないなど、賃貸収入金額や賃貸による利益に基づき、損害賠償金を計算しているような場合には、その損害賠償金は建物の取得価額に直接の関係がありませんので、収益等の額に計上することになるものと考えられます。
したがって、建物の取得価額から損害賠償金を控除できるか否かは、その損害賠償金の内容によることになりますが、法人税の計算に影響するだけでなく、場合によっては消費税における課税仕入れの計算に差が生じることになりますので、損害賠償金額の確定と併せてその内容を両社で確認し、それに応じた経理処理することが必要となります。
建物に瑕疵があって値引きが行われた場合には、上記〔1〕に該当するものと考えられますが、お尋ねのようにA社が損害賠償金額を逸失利益相当額に基づいて計算している点などを踏まえれば、その内容は引渡し遅延による逸失利益や損失補てんとして、建物の取得価額(2億円)から控除するのではなく、収益の額に計上するものと考えられます。
【関連情報】
《法令等》
- 法人税法施行令54条
- 法人税基本通達2-1-43
【収録日】
令和 7年 8月14日
上記掲載内容は、作成時の法令を基に作成しております。このため、個々の掲載内容が最新の法令等に基づいているかは、利用者ご自身がご確認ください。
出典:TKC税務研究所
