【税務Q&A】雇用保険に加入した兼務役員の法人税法における使用人兼務役員としての取扱い

【質問】

 A社は訪問介護を行う介護事業を営んでおり、多くの介護事業所と同様にA社も人材不足の状況にあることから、役員(甲及び乙)も従業員と同様の業務をこなしています。
 この度、役員も介護従事者として申請可能な厚生労働省管轄の補助金の申請を行い、給付を受けました。この補助金は全額給与として払い出すこととなっていますので、A社では従業員だけでなく役員に対しても給与として支給予定です。
 なお、甲は取締役(いわゆる平取締役)総務課長であり、乙は監査役で2人ともに兼務役員雇用実態証明書の提出により雇用保険の加入が認められています。
 従業員と同様の業務による給与であることから、役員に対するものも使用人分の給与として支給することにより、定期同額給与に該当しない場合でも役員給与の損金不算入の適用を受けないものと考えていますが、問題はありますか。

【回答】

1 法令等の規定
(1)役員給与の損金不算入
役員に支給する給与については、定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与に該当するもの以外は損金不算入とされています(法法34〔1〕)。
   ただし、役員に支給する給与から「使用人としての職務を有する役員に対して支給する当該職務に対するものを除く。」(法法34〔1〕括弧書き)とされていますので、
使用人としての職務を有する役員(いわゆる使用人兼務役員)に対する使用人の職務に対する給与は、この規定(役員給与の損金不算入)の適用対象外と考えられます。
(2)雇用保険における取扱い
   ご質問にある監査役の雇用保険の加入に関しては、厚生労働省のHP等で、兼務役員について、次のように名目的な監査役の雇用保険の加入を容認しています。
   「監査役については、会社法上従業員との兼職禁止規定(会社法335〔2〕)があるため、被保険者とならない。ただし、名目的な監査役に就任しているに過ぎず、常態的に従業員として事業主との間に明確な雇用関係があると認められる場合はこの限りでない。」
   実際に兼務役員雇用実態証明書に所定の書類(就業規則、役員報酬規程等)を添付して提出することで、雇用保険の加入が認められているようです。
(3)使用人兼務役員
   使用人兼務役員とは、役員(社長、理事長など政令で定めるものは除く。)のうち、部長、課長その他法人の使用人としての職制上の地位を有し、かつ、常時使用人としての職務に従事するものをいいます(法法34〔6〕)。
   これを受け、「使用人兼務役員」から除かれるものとしては、〔1〕代表取締役、代表執行役、代表理事及び清算人、〔2〕副社長、専務、常務その他これらに準ずる職制上の地位を有する役員、〔3〕合名会社、合資会社及び合同会社の業務を執行する社員、〔4〕取締役(指名委員会等設置会社の取締役及び監査等委員である取締役に限ります。)、会計参与及び監査役並びに監事及び〔5〕一定の株式保有状況にある同族会社の特定役員が挙げられています(法令71〔1〕)。
(4)使用人兼務役員となる役員における使用人分給与については、役員給与の損金不算入規定の適用から除かれていることから、使用人としての給与が、従事する使用人の職務と概ね類似する職務に従事する他の使用人に対する給与と同程度のものである等、使用人分の給与の適正額と認められる場合(法基通9-2-23)には、その全額が使用人給与として損金に算入されるものと思われます。
   ただし、使用人兼務役員も役員にほかなりませんので、使用人兼務役員に支給した給与は、たとえ、使用人としての職務に対するものが含まれていても、その総額が役員給与として取り扱われ、過大役員給与の判定上も、原則としてその総額に基づいて行うべきことになります。
   
2 ご質問に対する回答
(1)役員甲は、いわゆる平取締役であり、総務課長としての職制上の地位を有し、かつ、常時使用人としての職務(介護業務)に従事しているとのことから、使用人兼務役員に該当すると認められます。
   一方、役員乙は雇用保険の加入に関し、雇用保険上はその勤務実態により兼務役員として取り扱われているものとしても、法人税法上は監査役であるため使用人兼務役員から除かれ、使用人兼務役員になることはできません。
(2)役員甲に対する給与のうち、役員分給与については法人税法34条1項に役員給与の損金不算入要件が定められていますが、使用人分給与については、上記1(1)のとおり役員給与の損金不算入の適用対象外と考えられますので、使用人分給与として支給した金額(適正額)はご認識のとおり定期同額給与に該当しない場合でも役員給与の損金不算入の適用を受けないこととなります。
   一方、使用人兼務役員ではない役員乙に対する給与は、使用人分の給与に該当するものはありませんので、定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与に該当するもの以外は損金不算入となります。

【関連情報】
《法令等》
法人税法34条
法人税法施行令70条
法人税基本通達9-2-23
会社法335条

【収録日】
令和 7年 9月22日
上記掲載内容は、作成時の法令を基に作成しております。このため、個々の掲載内容が最新の法令等に基づいているかは、利用者ご自身がご確認ください。

出典:TKC税務研究所


投稿日

カテゴリー:

, , ,

投稿者:

タグ:

2025年11月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930