【質問】
A社においては、新たに企業型確定拠出年金(選択制DC)を導入して掛金(以下「本件掛金」といいます。)を拠出していますが、これは従業員が本件掛金を「給与として受け取るか」、あるいは「DCの掛金として拠出するか」を選べるものです。
本件掛金は、損金算入が可能かつ給与として受け取るかどうかを従業員自身が選択できるため、いずれにせよ実質的に給与と考えることもできそうですから、中小企業者等における所得拡大税制を適用する場合には「給与等支給額」に含めて計算するのでしょうか。
【回答】
1 賃上げ促進税制について
(1)令和4年度税制改正後の給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除制度(措法42の12の5)は、「大企業向け賃上げ促進税制」(同条〔1〕)と「中小企業向け賃上げ促進税制」(同条〔3〕)の2本立てでしたが、令和6年度税制改正によりその中間的位置づけとして、「中堅企業向け賃上げ促進税制」(同条〔2〕)が設けられて3本立てとなりました。
(2)このうち「中小企業者等における所得拡大税制」(措法42の12の5〔3〕)は、「中小企業者等」を対象に、賃上げ要件、上乗せ要件1、上乗せ要件2で構成されているところ、賃上げ要件は「雇用者給与等支給額」が前年比で、+1.5パーセントで「15パーセント」、+2.5パーセントで「30パーセント」の税額控除率が適用されるというものです。
また、上乗せ要件1は、教育訓練費につき前年比+5パーセントで税額控除率を「10パーセント」上乗せし、上乗せ要件2は、「くるみん」又は「えるぼし」の2段階目以上で税額控除率を「5パーセント」上乗せするというものです。
その結果、控除率は最大45パーセントとなりますが、控除上限は当期の調整前法人税額の20パーセントとされています。
(3)「雇用者給与等支給額」とは、法人の適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される「国内雇用者」に対する給与等の支給額(その給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額(国又は地方公共団体から受ける雇用保険法第62条第1項第1号に掲げる事業として支給が行われる助成金その他これに類するものの額及び役務の提供の対価として支払を受ける金額を除く。以下同じ。以下「補填額」といいます。)がある場合には、当該補填額を控除した金額。)をいいます(措法42の12の5〔5〕二、九)。
また、「比較雇用者給与等支給額」とは、法人の前事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される「国内雇用者」に対する給与等の支給額をいいます(措法42の12の5〔5〕十一)。
賃上げ促進税制における「給与等」とは、所得税法28条1項に規定する給与等のことをいいます(措法42の12の5〔5〕三)。
2 確定拠出年金の制度と取扱いについて
(1)確定拠出年金には、「企業型」と「個人型」があり、本来、自営業者や中小企業経営者は「個人型」に加入することが想定されているようですが、役員であっても「企業型」に加入することは可能と考えられています。
企業型確定拠出年金とは、企業が拠出した掛金は個人ごとに明確に区分され、掛金と個人の運用指図による運用収益との合計額が給付額となる企業年金制度であり、従業員のために企業等が規約を作成し、厚生労働大臣の承認を受けて実施するものです(企業年金HPより)。
なお、「選択制確定拠出年金」も企業型確定拠出年金の1つであって、確定拠出年金の拠出について社員自身の判断で決定できるもの、つまり、社員が給与の一部を確定拠出年金に拠出し自らの意思に基づき積み立てていくことが可能な制度で、確定拠出年金に拠出せず現行の給与をそのまま受け取ることもできるものと理解されます。
(2)法人税法においては、内国法人が確定拠出年金法4条3項に規定する企業型年金規約に基づいて事業主掛金を支出した場合には、損金の額に算入する(法令135〔1〕三)こととしています。
また、所得税法も、この事業主掛金は、被共済者、加入者、受益者等、企業型年金加入者、個人型年金加入者又は信託の受益者等に対する給与所得に係る収入金額に含まれないもの(所令64〔1〕四)としています。
3 ご質問について
(1)上記1及び2のとおり、賃上げ促進税制における「給与等」とは、所得税法28条1項に規定する給与等のことをいう(措法42の12の5〔5〕三)ところ、所得税法は、確定拠出年金の事業主掛金は、被共済者、加入者、受益者等、企業型年金加入者、個人型年金加入者又は信託の受益者等に対する給与所得に係る収入金額に含まれないもの(所令64〔1〕四)としています。
したがってそうであれば、本件掛金は、賃上げ促進税制の給与等支給額に含まれないものと考えられます。
(2)なお、本件掛金は、損金算入が可能かつ給与として受け取るかどうかを従業員自身が選択できるという点で、いずれにせよ実質的に給与と考えることもできそうとのご見解についてです。
上記(1)のとおり、賃上げ促進税制における「給与等」とは、所得税法28条1項に規定する給与等のことをいい、本件掛金を「給与として受け取る」を選択した場合はそのとおり「給与等」に該当することになりますが、本件掛金を「DCの掛金として拠出する」を選択した場合は勘定科目に関係なく法人税法上損金の額に算入する(上記2(2)のとおり)、つまり「給与等」に該当するわけではないことになります。
したがって、ご見解は、こうした法の枠組みの違いによる感覚的な違和感をいうものと思われます。
【関連情報】
《法令等》
- 法人税法施行令135条
- 租税特別措置法42条の12の5
- 所得税法施行令64条
【収録日】
令和 7年 9月22日
上記掲載内容は、作成時の法令を基に作成しております。このため、個々の掲載内容が最新の法令等に基づいているかは、利用者ご自身がご確認ください。
出典:TKC税務研究所
