【質問】
3月決算法人であるA社では、取締役甲に対する事前確定届出給与の支給を今期末の3月に行うこと(この職務執行期間中の支給はこの一回だけです。)を決議し、所轄税務署への届出を行っていましたが、このたび甲の一身上の都合によりが任期途中で取締役を辞任することとなり、甲より取締役の辞任と事前確定届出給与を辞退する旨の届出が提出されました。
その結果、今期末の甲に対する事前確定届出給与の支給はなくなりますが、その場合に必要となる税務署への届出の変更等の税務上の手続及び当該所要の手続を期限内に行わなかった場合の税務上の影響についてご教示ください。
【回答】
1 事前確定届出給与とは、その役員の職務につき、所定の時期に確定額を支給する旨の定めに基づいて支給する給与(定期同額給与及び利益連動給与を除きます。)をいいます。そして、同族会社に該当しない法人が定期給与を支給しない役員に対して支給する給与を除き、事前確定届出給与については、所定の提出期限までに、納税地の所轄税務署長にその定めの内容に関して所定の事項(事前確定届出給与の支給時期及び各支給時期における支給金額等)を記載した届出を行う必要があります(法法34〔1〕二)。
届出期限は、原則として、株主総会等の決議により事前確定給与の定めをした場合における当該決議の日(同日が職務執行開始日後である場合には、職務執行開始日)から1月経過日(同日が会計期間開始日から4月を経過する場合には4月経過日とし、新設法人の場合にはその設立日以後2月を経過する日)までとされていますが、既に事前確定届出給与の届出(直前届出)を行っている法人が「臨時改訂事由(役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情をいいます。)」に基因して当該直前届出に係る定めの内容を変更する場合には、臨時改定事由が生じた日から1月を経過する日までに事前確定届出給与の変更届を提出しなければならないこととされています(法令69〔5〕一)。
そして、この臨時改訂事由には、事業年度の中途において新たに役員に就任したり役員から辞任することも該当するものと思われます。
2 したがって、お尋ねのように役員が期中に辞任されたことに基因して事前確定届出給与の届出内容を変更(減額又は不支給等)する場合には、臨時改訂事由である「辞任の事実が生じた日」から1月を経過する日までに事前確定届出給与の変更届を提出する必要があります。
この「辞任の事実が生じた日」については、会社法等による取締役の辞任手続によりますと、取締役と会社とは民法上の委任関係にあり(会社法330)、民法上、委任関係の終了は「各当事者がいつでもその解除をすることができる」と定められています(民法651)ので、その辞任により役員に欠員が生じる場合等を除き(会社法346〔1〕)、取締役は任期の途中であっても会社に辞任の意思表示をすれば、その時点(その意思表示が会社側へ到達した日)で辞任の効力が発生するものと解されています。なお、取締役が辞任した場合は、取締役の氏名は登記事項であるため、辞任した日から2週間以内に本店所在地を管轄する法務局へ取締役変更の登記申請を行うこととされています(会社法911〔3〕十三、915〔1〕)。
このような取締役の辞任手続によりますと、臨時改訂事由である辞任の事実が生じた日は、辞任の効力が発生する「会社に辞任の意思表示を行った日」と解されますので、お尋ねの場合は、甲より取締役の辞任と事前確定届出給与を辞退する旨の届出を受領した日となり、その日から1月を経過する日までに甲への事前確定届出給与の支給に関する直前届出の内容を変更する「事前確定届出給与の変更届」を提出する必要があります。
3 仮に、この事前確定届出給与の変更届の提出を上記の提出期限内に行わなかった場合の税務上の影響については、期限を徒過して提出された変更届は、法定要件を満たしていない届出として、届出内容の変更の効力は生じないものと思われますので、直前に届け出た支給額と実際の支給額が異なる場合には、事前確定届出給与に該当しないこととなり、原則として、その支給額の全額が損金不算入とされます(法基通9-2-14)。
したがって、例えば、取締役の辞任により事前確定届出給与を減額して支給した場合には、減額後の実際に支給した金額が損金不算入となりますが、お尋ねの事例では、当該職務執行期間中の甲への支給はこの一回だけ、とのことであり、その支給を取り止め、全額を支給しないこととした場合には、損金不算入とされる支給額(損金計上額)はないこととなり、また、支給日到来前の受領辞退であることから甲と会社の間には債権・債務関係も生じていないものと解されますので、仮に、事前確定届出給与の変更届の提出が提出期限を徒過した場合又は提出を失念して行わなかった場合でも、税務上、特に問題が生じることはないものと思われます。
なお、事前確定届出給与とは、「その役員の職務につき」所定の時期に確定額を支給する旨の定めに基づいて支給する給与をいい、支給対象となる個々の役員ごとにその支給時期や支給額等を届け出ることとされていますので、お尋ねの甲に対する事前確定届出給与の不支給が他の取締役の事前確定届出給与の判定に影響することはないものと思われます。
【関連情報】
《法令等》
法人税法34条
法人税法施行令69条
法人税基本通達9-2-14
会社法330条
会社法346条
会社法911条
会社法915条
民法651条
【収録日】
令和 5年 1月16日
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出典:TKC税務研究所
