【質問】
A社は8月決算法人でX年10月の定時株主総会において役員の月額給与の通常改定(11月25日支給分以降、代表取締役は120万円から150万円、専務は80万円から100万円にそれぞれ増額)とX1年2月の事前確定届出給与(役員賞与)各150万円の支給を決定しました。
代表取締役と専務の2名を事前確定届出給与対象者として事前確定届出給与に関する届出書(以下「本件届出書」という。)を提出し、本件届出書の付表1の「事前確定届出給与以外の給与金額」は各人ごとに次のとおり記載しています。
X年9月25日・10月25日 代表取締役120万円、専務80万円
X年11月25日~X1年8月25日 代表取締役150万円、専務100万円
X年11月の役員給与支給前に、専務が担当している営業部の課長による業務上横領が発覚し、会社に対して大きな損害を与えてしまいました。直ちに臨時株主総会を開催し、当該課長の懲戒解雇と代表取締役及び専務が責任を取り、月額給与からそれぞれ20万円の減給処分(5ヶ月)を決定しました。
定時株主総会で改定した役員給与は支給する前から変更となりますが、役員賞与の金額は、変更せず本件届出書の金額と同じ額を支給する予定です。
ところで、事前確定届出給与に関する届出書を提出後に、変更事由が生じた場合には、「事前確定届出給与に関する変更届出書」を提出することとされています。今回の場合には、変更届出書は必要でしょうか。また、届出書の記載金額と異なることで、毎月の役員給与や事前確定届出給与が損金不算入となることがあるでしょうか。
【回答】
1 法令等の規定
(1)事前確定届出給与
事前確定届出給与とは、その役員の職務につき、所定の時期に確定額を支給する旨の定めに基づいて支給する給与で、原則として、株主総会等の決議により「事前確定給与」の定めをした場合における当該決議の日から1月経過日または会計期間開始後4か月のいずれか早い時期までに、所轄税務署長にその定めの内容に関して「所定の事項(事前確定届出給与の支給時期及び各支給時期における支給金額等)」を記載した届出をしている場合の給与のこととされています(法法34〔1〕二、法令69〔2〕〔4〕)。
通達においては、「事前確定届出給与」に掲げる給与は、所定の時期に確定した額の金銭等を交付する旨の定めに基づいて支給される給与をいうのであるから、例えば、同号の規定に基づき納税地の所轄税務署長へ届け出た支給額と実際の支給額が異なる場合にはこれに該当しないこととなり、原則として、その支給額の全額が損金不算入となる(法基通9-2-14)とされています。
(2)事前確定届出給与に関する届出
事前確定届出給与に関する届出における「所定の事項」とは、以下の事項とされています(法規22の3〔2〕)。
一 届出をする内国法人の名称、納税地及び法人番号並びに代表者の氏名
二 事前確定届出給与の支給の対象となる者の氏名及び役職名
三 事前確定届出給与の支給時期並びに各支給時期における支給額又は交付する株式若しくは新株予約権の銘柄、その他の内容
四 法人税法施行令第69条第4項第一号の決議をした日及び当該決議をした機関等
五 事前確定届出給与に係る職務の執行の開始の日
六 法人税法施行令第69条第1項第一号イ(1)に掲げる法人である場合の、定款等の定め又は特別の事情若しくはやむを得ない事情の内容
七 事前確定届出給与につき定期同額給与による支給としない理由及び当該事前確定届出給与の支給時期を第三号の支給時期とした理由
八 事前確定届出給与に係る職務を執行する期間内の日の属する会計期間において事前確定届出給与対象者に対して事前確定届出給与と事前確定届出給与以外の給与とを支給する場合における当該「事前確定届出給与以外の給与」の支給時期及び各支給時期における支給額
九 その他参考となるべき事項
(3)付表1(事前確定届出給与等の状況(金銭交付用)の記載要領等
付表1(事前確定届出給与等の状況(金銭交付用)の記載要領等の(4)には、『「事前確定届出給与以外の給与に関する事項」の「支給時期(年月日)」欄及び「支給額(円)」欄には、事前確定届出給与対象者に対して支給した又は支給しようとする事前確定届出給与以外の給与について、届出の時において予定されている支給時期及び支給額を記載してください。』とされています。
(4)事前確定届出給与に関する変更届出書
事前確定届出給与についても、定期同額給与において改定が認められている2つのケース(臨時改定・業績悪化改定)において、届出の変更が認められています(法令69〔5〕)。
「法人税法第34条第1項第二号に規定する定めに基づいて支給する給与につき直前届出をしている内国法人が当該直前届出に係る定めの内容を変更する場合において」とありますので、この場合の変更の対象は事前確定届出給与であり、同条第1項第1号の定期同額給与(「事前確定届出給与以外の給与」)はこれに含まれません。したがいまして、事前確定届出給与に関する変更届出書及び付表(変更後の事前確定届出給与等の状況)において、届出書にある「事前確定届出給与以外の給与」を記載する欄はありません(法令69〔5〕、法規22の3〔3〕)。
届出の変更の提出期限は、臨時改定事由については、当該臨時改定事由が生じた日から1月を経過する日、業績悪化事由については、当該業績悪化事由によりその定めの内容の変更に関する株主総会等の決議をした日から1月を経過する日(当該変更前の当該直前届出の当該直前届出に係る定めに基づく給与の支給日(当該決議をした以後最初に到来するものに限る。)が当該1月を経過する日前にある場合には、当該支給の日の前日)とされています。
(5)役員給与の損金不算入
法人税法第34条第1項第一号に規定するその支給時期が1月以下の一定の期間ごとである給与(定期給与)で当該事業年度の各支給時期における支給額がその事業年度の支給時期に同額が支給されるものその他これに準ずるものとして政令で定める給与を定期同額給与として、各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入することを認めています(法法34〔1〕一)。
それを受けて、政令で定める給与とは、定期給与で当該事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から三月までに継続して毎年所定の時期にされる通常改定、臨時改定事由によりされた改定、又は経営状況が著しく悪化したことその他これに類する理由(業績悪化事由)による改定で、当該事業年度開始の日又は給与改定前の最後の支給時期の翌日から給与改定後の最初の支給時期の前日又は当該事業年度終了の日までの間の各支給時期における支給額が同額であるものとされています(法令69〔1〕)。
そして、臨時改定事由とは、「役員の職制上の地位の変更、役員の職務の内容の重要な変更その他これらに類する止むを得ない事情」とされ(法令69〔1〕一ロ)、その具体的例示が通達で明らかにされている(法基通9-2-12の3)ほか、同通達の解説では会社やその役員が不祥事等を起こした場合に役員給与の額を一定期間の減額が社会通念上相当と認められる範囲のものであるときは、その減額改定及びその後の元の水準まで戻る増額改定についても、役員の額を改定せざるを得ない事情による改定であり、臨時改定事由に該当すると考えられるとしています。
2 ご質問に対する回答
(1)事前確定届出給与に関する変更届出書の提出の要否について
上記1(4)のとおり、変更届出書の対象は事前確定届出給与に関するものに限られますので、お尋ねの場合には事前確定届出給与の支給時期、支給金額ともに変更はないとのことから、変更届出書の提出は不要となります。
(2)月額給与等に対する影響について
毎月の役員給与が損金の額に算入されるか否かは、本件届出書に記載されたとおりに支給されたかということは直接関係するものではなく、定期同額給与に該当すれば、損金の額に算入されることとなります。
したがいまして、今回の減給処分が臨時改定事由に該当するか否かということになると考えられます。営業部の不祥事の内容次第ではありますが、その責任をとって減給処分となったことが社会通念上相当と認められる範囲のものであるときは臨時改定事由に該当し、5カ月間の減給があったとしても定期同額給与となると考えられます。
また、本件届出書の「事前確定届出給与以外の給与」欄に記載された金額と異なる月額給与が支給されたとしても、本件届出書の記載のとおりに事前確定届出給与(役員賞与)が支給される場合には、事前確定届出給与を損金の額に算入することに問題はないと考えられます。
【関連情報】
《法令等》
法人税法34条
法人税法施行令69条
法人税法施行規則22条の3
法人税基本通達9-2-12の3
法人税基本通達9-2-14
【収録日】
令和 7年 2月17日
上記掲載内容は、作成時の法令を基に作成しております。このため、個々の掲載内容が最新の法令等に基づいているかは、利用者ご自身がご確認ください。
出典:TKC税務研究所
