【税務Q&A】前期に圧縮記帳と特別控除を適用した資産の当期における割増償却適用の可否

【質問】

 輸出業を営むA社は、前期において、認定輸出事業計画に記載された施設に該当する取得価額500万円の機械及び装置(以下「本件機械」といいます。)を購入しましたが、これは〇〇補助金200万円(以下「本件補助金」といいます。)にて取得したものです。
 そのため、全額の200万円を国庫補助金収入として計上し、取得価額を減額する方法で圧縮損200万円を計上した結果圧縮後の取得価額は300万円となりましたが、圧縮後の取得価額300万円が160万円を超えることから、中小企業者等投資促進税制の特別控除(措法42の6〔2〕)を適用しています。
 前期においては、措置法関係の重複適用禁止規定(措法53〔1〕)を踏まえて輸出事業用資産の割増償却(措法46)は適用しませんでした。
 しかし、当期になりましたので、「本件機械」について輸出事業用資産の割増償却をすることができるのでしょうか。

【回答】

1 中小企業者等投資促進税制等について
(1)中小企業等投資促進税制(措法42の6)は、中小企業者などが平成10年6月1日から令和9年3月31日までの期間内に「特定機械装置等」で新品のものを「取得」し又は製作して国内にある製造業、建設業などの指定事業の用に供した場合に、その指定事業の用に供した日を含む事業年度において、原則として基準取得価額の30パーセント相当額の特別償却又は基準取得価額の7パーセント相当額の税額控除を認めるものです。
(2)輸出事業用資産の割増償却(措法46)は、青色申告書を提出する法人で輸出促進法の認定輸出事業者であるものが、農林水産物及び食品の輸出の促進に関する法律等の一部を改正する法律の施行の日(令和4年10月1日)から令和8年3月31日までの間に、その法人の認定輸出事業計画に記載された施設に該当する機械装置、建物等及び構築物のうち、農林水産物又は食品の生産、製造、加工又は流通の合理化、高度化その他の改善に資する一定のもの(輸出事業用資産)の取得等をして、これをその法人の輸出事業の用に供した場合には、その用に供した日以後5年以内の日を含む各事業年度(その輸出事業用資産を輸出事業の用に供していることにつき証明がされた事業年度に限る。)において、その輸出事業用資産の普通償却限度額の30パーセント(建物等及び構築物については、35パーセント)相当額の割増償却ができるというものです。
2 前期における重複適用について
 一般論として「圧縮記帳と特別償却の重複適用は可能か」ですが、租税特別措置法上の圧縮記帳の適用を受けた資産については、特別償却又は特別税額控除の適用をすることはできません(措法64〔7〕、65の7〔7〕等)から、重複適用は排除されています。
 しかし、「本件補助金」に係る圧縮記帳は、法人税法上の圧縮記帳(法法42)ですから、租税特別措置法上の特別償却又は特別税額控除との重複適用を排除する規定はなく、「重複適用」は可能と考えられます。
 よって、A社が前期において「本件機械」と「本件補助金」に関して、中小企業者等投資促進税制の特別控除(措法42の6〔2〕)と法人税法上の圧縮記帳(法法42)を適用したことについては、問題ないものと考えられます。
2 当期における輸出事業用資産の割増償却(措法46)の適用について
(1)措置法上の特別償却等に関する複数の規定の不適用措置については、従来から、法人の有する減価償却資産が当該事業年度において租税特別措置法の規定による特別償却又は税額控除制度のうち、2以上の制度に係る規定の適用を受けることができるものである場合には、その減価償却資産については、特別償却又は税額控除制度に係る規定のうちいずれか一の規定のみを適用することとされています(措法53〔1〕)。
 それゆえ、前期において、措置法関係の重複適用禁止規定(措法53〔1〕)を踏まえて輸出事業用資産の割増償却(措法46)を適用しなかったのは、妥当な判断と考えられます。
(2)それが令和6年度税制改正において新たに、法人の有する減価償却資産につき当該事業年度前の各事業年度において租税特別措置法の規定による特別償却又は税額控除制度に係る規定のうちいずれか一の規定の適用を受けた場合には、その減価償却資産については、そのいずれか一の規定以外の租税特別措置法の規定による特別償却又は税額控除制度に係る規定は、適用しないこととされました(措法53〔3〕)。すなわちこれは、法人の有する一の減価償却資産については、異なる事業年度であっても、租税特別措置法の規定による特別償却又は税額控除制度のうち複数の制度の適用ができないこととするものです。
 この改正は、法人の令和6年4月1日以後に開始する事業年度分の法人税について適用し、法人の同日前に開始した事業年度分の法人税については、従前どおりとされています(改正法附則38)。
(3)そこで、「本件機械」について、輸出事業用資産の割増償却をすることができるのかです。
 「当期」が令和6年4月1日以後に開始する事業年度だとしますと、上記(2)の取扱い(措法53〔3〕)が適用になります。
 「本件機械」は、前期において租税特別措置法による中小企業者等投資促進税制の特別控除(措法42の6〔2〕)の規定の適用を受けていますから、そのいずれか一の規定(措法42の6〔2〕)以外の租税特別措置法の規定による特別償却又は税額控除制度に係る規定は適用しない(措法53〔3〕)ことになると考えられます。
 したがって、A社の有する一の減価償却資産たる「本件機械」については、異なる事業年度ででも、租税特別措置法の特別償却又は税額控除制度のうち複数の制度を適用できないことになる、つまり、輸出事業用資産の割増償却をすることはできないと考えられます。
(4)なお、「当期」がそれより前の事業年度であればこの規定は適用されず、従前どおりの取扱いになると考えられます。
 それゆえ、「当期」が令和6年3月31日以前に開始する事業年度だとしますと、制限規定(措法53〔3〕)はありませんから、「本件機械」について輸出事業用資産の割増償却をすることができると考えられます。

【関連情報】

《法令等》

  • 法人税法42条
  • 租税特別措置法42条の6
  • 租税特別措置法46条
  • 租税特別措置法53条
  • 租税特別措置法64条
  • 租税特別措置法65条の7

【収録日】
令和 7年 9月22日
上記掲載内容は、作成時の法令を基に作成しております。このため、個々の掲載内容が最新の法令等に基づいているかは、利用者ご自身がご確認ください。

出典:TKC税務研究所


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