【税務Q&A】中小企業投資促進税制と研究開発税制による税額控除の重複適用について

【質問】

 製造業を営むA社では、研究所で使用する機械装置を新たに取得して試験研究の用に供しており、この機械装置について、中小企業投資促進税制(措法42の6)による税額控除の適用を受ける予定です。この機械装置は、固定資産に計上され、研究所での事業供用時から試験研究の用に供するため、その減価償却費は、研究開発税制の適用対象となる試験研究費の額に該当するものと思われます。この場合、当該機械装置の事業供用年度において中小企業投資促進税制による税額控除の適用を受けるとともに、その減価償却費について、以後の事業年度において試験研究費の税額控除を適用することは可能でしょうか。なお、両税制の適用要件はすべて満たしております。

【回答】

1 法人の有する減価償却資産が当該事業年度において租税特別措置法の規定による特別償却又は特別税額控除(以下「特別償却等」といいます。)のうち、2以上の制度に係る規定の適用を受けることができるものである場合には、その減価償却資産については、特別償却等に係る規定のうちいずれか一の規定のみを適用することとされています(措法53〔1〕)。
  すなわち、同一の減価償却資産について減価償却資産の取得等を適用事由とする租税特別措置法上の特別償却等に係る複数の規定の重複適用を禁止する規定が置かれています。
  この規定の対象となる租税特別措置法上の特別償却等の規定には、減価償却資産の取得等を適用事由とする中小企業投資促進税制(措法42の6)や中小企業経営強化税制(措法42の12の4)等の諸規定が挙げられていますが、試験研究費の支出等を適用事由とする研究開発税制(措法42条の4)や給与等の支給を適用事由とする賃上げ促進税制(措法42の12の5)等は含まれていません。
2 ただし、法人の有する減価償却資産の取得価額又は繰延資産の額のうちに第42条の4第19項第一号に規定する試験研究費の額が含まれる場合において、当該試験研究費の額につき同条第1項、第4項又は第7項の規定(すなわち、研究開発税制)の適用を受けたときは、当該減価償却資産又は繰延資産については、前項各号に掲げる規定は、適用しない(すなわち、重複適用を排除する)こととされています(措法53〔2〕)。
  この規定は、令和3年度の税制改正で追加されたものであり(法人の令和3年4月1日以後に開始する事業年度分の法人税について適用されます(改正法附則43)。)、その改正の趣旨ついて、令和3年度の「税制改正の解説(財務省) 621頁」では、「試験研究を行った場合の法人税額の特別控除制度が改正され、制度の対象となる試験研究費の額に、試験研究のために要する費用の額で研究開発費として損金経理をした金額のうち、棚卸資産若しくは固定資産(事業の用に供する時において試験研究の用に供する固定資産を除きます。)の取得に要した金額とされるべき費用の額又は繰延資産(試験研究のために支出した費用に係る繰延資産を除きます。)となる費用の額が追加されました。これに伴い、取得価額に対する二重のインセンティブとならないように、試験研究を行った場合の法人税額の特別控除制度と特別償却又は税額控除制度等との重複適用が排除されたものです。」と説明されています。
(参考)この令和3年度の税制改正で取得価額等が試験研究費の額に追加された資産は、会計上、研究開発費として損金経理をした金額であることが要件となりますので、企業会計上費用処理される一方で、法人税の課税所得の計算上取得価額に算入することになるもの(例えば、自社利用のソフトウエアの製作費用のうち将来の収益獲得又は費用削減が確実であるかどうか不明なもの等です。)に限られ、企業会計上も資産の取得価額に含まれる費用は、対象となりません。
  そして、同解説書の(注2)では、「事業の用に供する時において試験研究の用に供する固定資産は、上記の重複適用の排除の対象外であり、従前どおり、取得価額について特別償却又は税額控除制度等の適用を受けた場合であっても、減価償却費について試験研究を行った場合の法人税額の特別控除制度の適用を受けることができます。」と説明されています。
  すなわち、この規定(措法53〔2〕)により研究開発税制とその他の特別税額控除等の重複適用が排除されているのは、その取得価額が試験研究費の額に追加された一定の非試験研究用資産(すなわち、事業の用に供する時において試験研究用の資産ではないもの)であり、試験研究用資産(すなわち、事業の用に供する時において試験研究用の資産であるもの)は、対象となりませんので、その取得価額について特別償却又は税額控除制度等の適用を受けた場合であっても、従来どおり、その償却費の額を試験研究費の額に含めて研究開発税制の適用ができることとなります。
3 以上の法令規定等を踏まえ、お尋ねのA社において今期に取得した機械装置については、会計上、固定資産として計上されることから、(参考)に記載したように、上記の令和3年度の税制改正で取得価額等が試験研究費の額に追加された固定資産には該当しないものと思われ、また、その取得・事業供用時からA社の研究所において試験研究の用に供される、とのことから、重複適用の排除規定の対象外とされる試験研究用資産に該当しますので、その取得価額について事業供用時に中小企業投資促進税制(措法42の6)による税額控除の適用を受けた場合であっても、その減価償却費の額については、以後の事業年度において試験研究費の額に含めて研究開発税制の適用ができるものと思われます。
  なお、法人が一の事業年度において租税特別措置法上の複数の特別税額控除規定の適用を受ける場合には、その適用を受けようとする規定による税額控除可能額の合計額について、当該事業年度の調整前法人税額の90パーセント相当額を上限とする規定(措法42の13)が別途、設けられていますので、事業供用年度においては、この点に留意する必要があります。

【関連情報】

《法令等》

  • 租税特別措置法42条の4
  • 租税特別措置法42条の6
  • 租税特別措置法42条の12の4
  • 租税特別措置法42条の12の5
  • 租税特別措置法42条の13
  • 租税特別措置法53条

【収録日】
令和 7年 9月22日
上記掲載内容は、作成時の法令を基に作成しております。このため、個々の掲載内容が最新の法令等に基づいているかは、利用者ご自身がご確認ください。

出典:TKC税務研究所


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